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創世記(その2):10〜35章

目次

 

はじめに

 創世記の後半の部分はイスラエル民族の父祖たちの歩みが描かれています。これらの部分も、1〜9章と同様に「これらが〜の『系図』(ヘブライ語で『トレドート』)」という表現で分けられています。十章から始まる五つの部分(10:1-11:9; 11:10-26; 11:27-25:11; 25:12-18; 25:19-35:29)を概観してみましょう。

セム、ハム、ヤペテの子孫たち(10:1-11:9)とセムの子孫たち(11:10-26)

 洪水のあと、ノアの子セム、ハム、ヤペテの子孫たちは世界中に広がっていき、地上の諸民族が生まれてきました。ヤペテの子孫は地中海からその北方の地域(10:2-5)、ハムの子孫はカナンからエジプトやアフリカの地域(10:6-20)、そしてセムの子孫はアラビアからメソポタミアの地域(10:21-31)に広がり、諸国民の父祖となってのです。数が多くなった人々は、共に集って、町と塔を建て、自分たちの名を上げ、全地に散らされることがないようにしようと考えるに至りました(11:4)。町と塔を建設するという大きなプロジェクトを行うことができたのは、彼らが同じ言葉であったからだと聖書は理解しています。そして彼らは「バベルの塔」を建設しました。しかし、「みずからの力で自らの名を上げよう」という彼らの傲慢を見られた主は、その言葉を乱し、さらに人々を全世界に散らされました(11:9)。諸国民はばらばらになってしまったのです。

 主の祝福はノアを通して全ての国の民に約束されています。しかし、今や彼らは散らされ、約束が果たされないような状況に陥ってしまいました。そのような状況の中で、約束を守るために、主はセムの子孫からひとりの人を選ばれました。それがテラの子アブラムでした(11:26)。

テラの子アブラハム(11:27-25:11)

 テラとアブラムを含む彼の子どもたちはカルデヤのウル(現在の南イラク)から出立し、ユーフラテス川上流のハランへと移住しました。それはカナンの地へと向かうためでした。しかし、志半ばでテラはハランで死にました(11:27-32)。そのような危機的な状況の中で、主はアブラムに声をかけられたのです(12:1-3)。家族が共にいるハランを出立し、主が示す地へと向かうように命じられました。そして、アブラムには主の祝福の約束が与えられていました。主が彼を祝福し、彼の名を大いなるものとし、アブラムの子孫を大いなる国民とすると誓われたからです。しかし、この祝福は単にアブラム一族が祝福されるだけが目的ではありません。主がかつてノアに対して約束された祝福を、もっと戻って天地創造において主が語られた祝福をアブラムとその子孫たちが全世界の民に取り次ぐことこそが彼らに与えられた使命でした。アブラムはこの主のことばを真っ正面から受け止めました。ハランを出て、カナンの地に向かっていきました。そして、イスラエルの山地のシケムに到着した時、主はアブラムにこの地を与えるとの約束も与えられました(12:7)。

 アブラムの子孫を大いなる国民とし、カナンの地を与え、彼らを通して全世界の民を祝福する約束が現実となるためには、ひとつの大きな問題がアブラムに立ちはだかっていました。アブラムの妻サライは不妊の女であり、彼らに子どもがいなかった点でした。アブラムは自らが所有している奴隷の子どもであるダマスコのエリエゼルがこの約束を継承すると考えていました(15:2-3)。しかし、アブラムの子孫が天の星の数のようになるのであると主は約束されました(15:5)。約束を知ってはいましたが、アブラムはそれが現実になるのを待つことができず、当時の風習と妻の助言に従って、サラが所有する女奴隷であるハガイから子をもうけました。そして、彼女からイシマエルが生まれたのです(16章)。アブラムが主の約束を信じ切れない一方で、主はサラ(サライから改名)を通して生まれるアブラハム(アブラムから改名)の子であるイサクこそが彼の約束を受け継ぐのである、と語られ、アブラハムと契約を結ばれ、その印として、割礼を制定されました(17章)。そして、主の約束通り、サラから男の子、イサクが生まれました。アブラハムが百歳の時のことでした(21:1-7)。ところが、イサクを主は燔祭(全焼のいけにえ)としてささげることをアブラハムに命じ、アブラハムはそれに従いました。まさにイサクをささげようとした時、主はそれを止められ、かつてアブラハムにされた約束を再確認してくださったのです(21:1-19)。このように、アブラハムはその歩みを通して、「主の約束を実現するのは主であって、人間の能力ではない」ことを教えられたのです。

イシマエルの子孫たち(25:12-18)とイサクの子孫たち(25:19-35:29)

 アブラハムの二人の子どもは共に主の祝福を受けていきました。イシマエルさえも主の約束通り(21:17-18)その子孫は増え広がっていったことが記されています(25:12-18)。しかし、主の約束はサラの息子であるイサクが継承していきました。彼には二人の男の子エサウ(兄)とヤコブ(弟)が与えられました(25:21-26)。本来は長子であるエサウが主の祝福の約束を継承するのですが、次男ヤコブは自らの知恵と策略によってそれを兄から奪い去ろうと試みました。まず、レンズ豆の煮物と引き替えに長子の権を買い取り(25:29-34)、その後、目の見えない父イサクをだまし、長子の祝福を自分のものとします(27章)。しかし、兄の怒りを買ったため、ヤコブは家族の住むベエルシバを去り、伯父のラバンが住むパダンアラムへと逃げていきました(28:1-5)。

 自分の知恵と策略で何でも獲得できる、と思っていたヤコブでしたが、パダンアラムの地で彼の上を行く狡猾なラバンと出会い、大きな壁にぶつかりました。ラバンの次女ラケルを嫁にもらう約束をしていたのに、婚礼の次の朝起きてみると、隣にはラケルの姉レアがおり、結果的に長く労働し、二人ともを嫁にもらうことになりました(29:21-30)。ラケルとレアの姉妹はヤコブを巡って競争し、家庭内の不和が続きました。家族の問題を抱えながらも、主はヤコブを祝福しました。そして、最後にはヤコブの狡猾さがラバンを上回り、たくさんの良い家畜を引き連れて彼は父イサクの家へと帰っていきました(31章)。十一人の息子達がすでに与えられていました。

 ところが、最後の最後でヤコブは最大の壁にぶつかりました。それは兄エサウでした。エサウのところへ向かった時、エサウが四百人の軍隊を引き連れて迎えに来ている、とヤコブは聞きました。そして、心から兄の復讐を恐れました(32:6)。そこでヤコブは自らの財産を二つの組に分け、自分よりも先にエサウの所に送りました。さらには、妻たちと子どもたちを先に渡しをわたらせ、自分だけはあとに残りました。その夜、彼はヤボクの渡しにおいて主の使い、いや主ご自身と格闘したのです(32:22-32)。ヤコブは最後の最後まで主の祝福を求めました。そして、主は彼を祝福されました。ただ、ふともものつがいが外され、歩くのが不自由になってしまいました。次の日の朝、主との格闘を経験したヤコブは、今までの姿と一変し、自らすすんでエサウに向き合い、そして無事にカナンの地へと帰還したのでした(33章)。ヤコブはその生涯の苦闘を通して、祝福とは自らの狡猾さで「獲得する」ものではなく、主から一方的に与えられるものであることに気づきました。そして、主から与えられた確信を得た時、どのような現実にも向かい合うことができるようになったのです。

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