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出エジプト記(その1):1〜15章

目次

 

はじめに

 ヤコブの子孫たちはヨセフの導きによってカナンからエジプトへ移り、そこに定住しました(創世記46:1-27)。しかし、主がアブラハムに約束された地はカナンです。ですから、エジプトに留まり続けるわけにはいきません。そこで、主はイスラエルを導いて、エジプトからカナンへと移住させます。このようにして、出エジプトからカナン定住直前までのいきさつが五書の残りの書に記されています。まず、エジプトにいたイスラエルの民がその地を脱出するまでを描いた主エジプト記1〜15章を概観していきましょう。

エジプトでの苦難の中で生まれたモーセ(1:1-2:25)

 エジプトに移住後、イスラエルの子孫は多く増え広がりました。その一方で、エジプトに新しい王朝が起こりました。以前の王朝はヨセフと深く関わりがあったのでイスラエルの民に好意的でした。しかし、新しい王朝はイスラエルの民を脅威と感じ、強制労働を彼らに課すことになりました(1:1-15)。しかし、そのような過酷な状況のなかでもイスラエルの民が増え広がるので、エジプトの王(パロと呼ぶ)は生まれた男の子を抹殺するように助産婦たちに命じました。けれども、神をおそれた助産婦たちはその命に従いません。そこで、生まれた男の子全てをナイル川に投げ込めとの命令がパロから下されました。民族の危機です。そのような状況の中で、レビの子孫である一族の家にひとりの男の子が生まれました。母親は彼をしばらく隠していましたが、ついにはナイル川に流されることとなりました。ところが、彼はパロの娘に見つけられ、パロの娘の子どもとして育てられることになりました。この男の子こそイスラエルの指導者モーセです(1:16-2:10)。

 モーセはパロの家で成長しました。ある日、同胞のイスラエルの民がエジプト人によって打たれたのを見たので、そのエジプト人を隠れて撃ち殺しました。モーセは自分の民を救うつもりでした。しかし、同胞はそれを誤解し、そのうえパロはモーセを殺そうと計画をたてました。そこで、モーセはエジプトを離れ、ミデヤンの地に逃亡し、そこの寄留者となったのです(2:11-22)。

イスラエルの指導者として神に招かれたモーセ(3:1-4:31)

 モーセはミデヤンの地で羊飼いとして生活していました。しかし、神の山ホレブにおいて見いだした燃える柴を見に行った時、イスラエルの先祖の神が彼に現れました。エジプトにいるイスラエルの民の苦しみを聞き、彼らをエジプトから救い出して約束の地に導こうと決心したことを神はモーセに告げました。そして、モーセをパロの所につかわすと主は命じられました(3:7-10)。この突然の招きにモーセは驚きました。そして、この召命を拒否しました。しかし、神は「わたしは必ずあなたと共にいる」との約束を与え、彼が指導者としてイスラエルの民を導き、彼らと共にもう一度この山にやってくると予告しました(3:11-12)。

 イスラエルの民にイスラエルの神から遣わされると聞いたモーセは躊躇しました。そして、そのことが困難であるいくつかの理由を挙げ、この招きから逃れようとしました。まず、自分を遣わした神がどんな方であるかをイスラエルの民から聞かれた時、どのように答えたらよいのかと神に尋ねました。神は「わたしは有って、有る者」または「主」であると自らの名をモーセに明かし、そのように伝えるように命じました(3:13-22)。次に、人々が「主はモーセには現れていない」と言って従わない時、どうしたらよいのかをモーセは主に尋ねました。主はつえを蛇にする奇跡、手を重い皮膚病に変える奇跡、ナイルの水を血に変える奇跡を示され、これによって説得するように命じました(4:1-9)。最後に、モーセは自らが語ることが苦手であると言って、主に抵抗しました。しかし、主は自らがモーセの口と共にあって語らせること、そしてモーセの兄弟アロンを語る者として遣わすと言い、躊躇し続けるモーセを叱責しました(4:10-17)。ついにモーセは主の招きを受け入れ、エジプトの地に戻り、イスラエルの民の前に出ていきました。

主とパロの戦い:十の災い(5:1-13:16)

 モーセとアロンはパロの所に行き、「イスラエルをエジプトから去らせるように」とイスラエルの神である主から命じられたことを告げました(5:1)。しかし、パロはこの提案に耳を傾けず、むしろ強制労働を今までよりも過酷なものとしました。イスラエルの民は不平を漏らし、窮地に立たされたモーセは神の前に祈りました。その祈りに答え、主はイスラエルをエジプトの手から救い出すと約束され、さらにこれから主がなされる様々なことを通して「わたしが・・あなたがたの神、主であることを、あなたがたは知るであろう」(6:7)と宣言されました。言い換えるならば、これから行われる十の災いは、世界を統べ治める権力を持つのはエジプトの王パロか、主か、イスラエルの民とエジプトの人々に知らしめす機会であると主は理解されていました。

 主とパロとの戦いが始まりました。まず、主はアロンのつえを用いてナイルの川の水を地に変え(7:14-25)、かえるで地をおおわせ(8:1-15)、地のちりをぶよに変えました(8:16-19)。次に、主はおびただしいあぶを送り(8:20-32)、家畜に疫病を臨ませ(9:1-7)、ついには人と獣にうみの出るはれものを生じさせました(9:8-12)。さらに、主はモーセのつえを用いて大きな雹をエジプトに降らせ(9:13-35)、いなごをエジプトの地にのぼらせ(10:1-20)、暗闇がエジプト全土に被うようにされました(10:21-29)。イスラエルの民ならびにエジプトの多くの民はこれらの災いを通して主の力を認めていきましたが、パロは心をかたくなにし、イスラエルを去らすことなく、イスラエルの神こそ本当の支配者、主であることを認めようともしませんでした。そこで、主は最後に過ぎ越しの災いを送られました。それはエジプトのあらゆる長子(人も家畜も)を殺戮するというものでした。ただ、その家の入り口の二つの柱とかもいとに子羊の血が塗られている家を主は通り過ぎられました(11:1-12:32)。この災いにはパロも耐えることができず、ついにパロはイスラエルの民をエジプトから追いだしました。主の約束はついに成就したのです。

主の完全な勝利(13:17-15:21)

 しかし、民が逃げ去ったことをパロは後悔しました。そして、イスラエルの民が海のかたわらに宿営していることをいいことに、戦車を送り、彼らのあとを追わせました。しかし、主はここでもイスラエルの為に戦われました。主はその使いを送り、パロの大軍勢を火と雲の柱でかく乱しました。その一方で、主は葦の海を陸地とされ、その乾いた地をイスラエルの民は向こう岸へと渡ることができました。ところが、イスラエルを追いかけて海の中に入っていったエジプトの軍勢は、いつもの流れに変わった海に打たれ、ひとりとして残りませんでした(14章)。このようにして、主はエジプトを完全に打ち負かし、自らこそが世界を永遠に統べ治める主であることを明らかにされました(15:18)。そして、人々はそれをハッキリと見たのです。このように、主の民として、主に従って歩むために必要なことは、主こそが全ての統治者、王であることを体験的に知ることです。

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